素晴らしい人間になろうと思うな

めんどくせえ本当は日記を書くのすら面倒なのだけれどこうでもしないと一言も喋らず一日を終えることがあるので他の動物と私を区別するために辛うじて親指だけに神経を注ぎながらあいうえお打ってみる、もしかすると脳味噌がなくなったのではとフルフル頭を振ってみるが目眩がしただけだった。頭痛いな。いつだって。

ぼんやり明けようとする空から逃げるように目をふせて歩く自宅までの砂利道、毎日新聞屋さんのエンジン音に恋をするが時々実体に出会してしまい気まずい。am.3:00の世界でふたりぼっちだねと顔も名も知らないあなたに。「餓鬼がこんな時間にうろついてんじゃねえよ」みたいな軽蔑の眼差しで見られても雨ニモマケズ風ニモマケズ雪ニモ夏ノ暑サニモでしょう頑張って下さい私は雨にも風にも雪にも夏の暑さにも嵐にも社会にも自分自身にも負けっぱなしだけれどねあなたの幸せを願っていますついでに私の幸せもそして恋人と友人の幸せを神様、とひとしきり世界平和を願って玄関の扉を開ける。祈るような気持ちで。
童話って深層心理らしい。美しい物語に憧れたお姫様がいつか物語に復讐されるように、ママ、私は貴女を憎んだり恨んだりもしないわ。いつかこの腹に新しい命を宿したとき、貴女があんなに正しいと信じて疑わなかった教育に、我が子の愛し方に復讐されればいい。
家族のたてる生活音や母親の怒鳴り声が泣きたくなるほど苦手なので犯人のように足音を忍ばせて階段をあがりベッドに沈む。人や町や車が動き出す頃やっと眠りにつく。あと1歩が飛び込めない中央線。ホームで項垂れるスーツ姿の男性はあなただったのかもしれない。または私だったのかもしれないし、大好きなあの子だったのかもしれない。社会に迷惑をかけるなと誰もが君の命を侮辱しても気にするなよ。そもそも君はどんな死に方をしても迷惑だよ。どんな生き方をしても迷惑だよ。野次馬達の携帯電話が一斉にフラッシュをたいてもその頃にはもう君の眼球はこの世界を捉えてはいない。君があんなに悲しくて辛くて寂しくてやるせなくて何度も死のうと考えてそれでも生きててよかったと思う日が少しはあった、私だけは分かってあげるから。みんな幸せになればいいのにね。おやすみなさい。

相も変わらず私は昼下がりに目を覚まし、代わり映えのしない1日の始まりに愕然とする。数時間前のおいちゃんとの時間がまるで夢のようだと思う。日常の中の非日常。非日常の中の日常。あなたは後者であれ。"今日はなんだか調子がいい"の調子がいいってどんな感じ??調子がいいと感じるのは調子が悪いことがあって、それと比べていい、悪いと言っているのだから、そもそも物心ついた頃からいつもどこかしら調子が悪い私は何と比べればいいのだろうか。上半身と下半身。右半分と左半分。右脳と左脳。ならば今日は左半分が良好で下半身は絶不調。上半身はたぶんほぼ死んでる。
おいちゃんはもう数時間仕事をこなしたというのに私はダラダラとチョコレートを食べたりパトテン酸とビタミンCとあとなんかよくわからない栄養素のサプリメントをラムネ菓子のようにボリボリと噛み砕いたりしております。健康オタクと呼んでくれて構わないよ。それも早死にするタイプの健康オタク。なぜなら暴飲暴食、3食コンビニ飯、朝夜逆転生活をありとあらゆるサプリメントと科学製品でカバーしようとしている人間だから(カバー出来てない)、朝昼晩三食一汁三菜、目覚めの一杯ミネラルウォーター、ラジオ体操と柔軟体操で体をほぐし、朝バナナ朝スムージーに三時のおやつは一握りのナッツと一杯のコーヒー砂糖ミルクは控え目、通学通勤はなるべく自転車夜はランニング、半身浴で汗を流し、ヨーグルトでお腹の調子を整え、今日1日の無事を神様に感謝して22時には眠りにつく本当の健康的な生活を送っていらっしゃる方からはきっと鼻で笑われるのでしょうね。でも私は根拠のない健康法を宗教のように崇めて客観性を失い周りの人間にまで迷惑をかけるタイプの一番有害な、アムウェイ的なそれではないし、水素水に手を出したりしていないし、完全に自己完結型なので許してほしい。私は自分の好きな人達全員の死に目を見るのが目標だからめちゃくちゃ長生きしなきゃならないわけよ。おいちゃんは32歳のくせに1.5リットルのジュースを1日1本水のようにガブガブ飲んでいたからぐちゃぐちゃする以前「カップルぽく喧嘩してみよう!」ってのをふたりでしてみた時に私が「もう1.5リットルのジュースガブガブ飲むの禁止ー!」って言ってからは梨水をガブガブ飲んでる。かわいい。

車の運転は好きだ。ただし道さえわかっていればの話。空間認識能力が-100くらいなので地図が読めない。東西南北という概念がない。自分がどこにいるのかわからない。風水は方位が絡んでくる時点で信じていない。地図を読むときに自分の首を傾ける。教習所教官「...君ここ地元だよね...?」。Googleマップすら私を裏切る。「ずっとまっすぐ行けばいいんだよ」という言葉が恐怖。おいちゃんに告白する当日、自分で指定したくせに待ち合わせのいっちょうに辿り着けず「今どこにいますか?」というおいちゃんの電話に「民家」と返す。道を聞かれて快く承諾するも一緒に迷って泣く。おいちゃんとはじめてサイレンをプレーするもゾンビどうこう以前に地図が読めない、そのくせパニクると後先考えず移動して現在地を見失い、おいちゃんから「今君はどこにいるでしょう」クイズを100回出題される、間違える。「壁づたいに行けばいいって言ったでしょ!?」って100回言われる、あんなに優しくて温厚なおいちゃんの突っ込みがちょっと怒ってる。

車内は完璧なプライベート空間だ。ここだけは誰も侵すことのできない私のテリトリー。大好きな音楽を大音量でかけて大声で歌う、どんなに下手くそでもどんなに暗い音楽でも誰も咎めることは出来ない。ふふふ。でも私は常に世界に優しくいたいし自意識過剰な人間なので窓を開けてこれが俺の趣味だぜと平気な顔して、むしろ得意気な顔して自己顕示欲を垂れ流すダサい人間にはならないのだ。そういう奴等は大抵EXILEをかけているという偏見。窓はしめきる、ついでにエアコンはかけない。今の時期車内はマジ地獄。灼熱地獄。毎日ちょっと熱中症になりかけながら車を運転している。だからふらっと死にたくなるのだろうか。
汗が頭皮から吹き出て額をつたい、首筋を流れ乳房の間を這いやがて腰に到達し衣服に染み込んで行く感覚がたまらなく好きなのだ。生きてるって感じがする。あー私の体はこんなにもきちんと代謝しているんだって愛しく思う。どんなに生きたいと願ってもやがて心臓は動くのをやめるのだ。逆に、どんなに死にたいと思っても心臓が動きをやめることなどない。我々の意思とは別に我々の体は生命している。じゃあこころはどこにあるのかしら?答えなんてどこにもないでしょう、そういう歯痒さを知るべきだ。そうすれば自ずと生きること死ぬことの神秘さに気づくでしょう。死ぬなんて言わないでよ。


大学は好き。周りの人達は皆面白いし、何より私が面白いので面白い。私は絶対に面白い。
人生は暇潰しだと言う。何もしなければ地獄のように長い時間、何かしようと思えばあまりに短すぎる人生の、ちょうどモラトリアム期間と呼ばれるその只中で私が夢中になれたことなど果たしてあったのだろうか。私が何かを成し遂げてきたのならそれは自分のためというより誰かのためだったのかもしれない。車通学で本当によかった。あの頃のままいまも電車に揺られていたのならきっとまた私と私が離ればなれになって世界が灰色に溶けてプラットホームに溢れかえる人たち一人一人には私とは違う意思や人格があってそれぞれの人生、生活があるのだと考え出すとあまりの途方のなさに言い知れぬ不安や畏怖を感じて私は私という人間の所在をなくしてしまうのだろう。絵を描くのが好きだったのはみんなが褒めてくれるから、頑張って嫌いな読書感想文書いたのは先生が褒めてくれるから、いつだって外側にしかなかった動機。それでも私命を燃やしたつもりになって泣いている。胸をはれることなどひとつもないのにあの夕日に感動してる。
私はもう何をしても生き延びてしまう気がするんだ。

つまり、私のは全部ただの感傷にすぎない。
考えているつもりで実は何も考えていないことを誰かに気付かれるのが怖くて慌てて本を読んでみようと思ったり勉強してみようと思ったりするのだけれど、根本的に救いようのないほど怠惰で無精な性格のために実に非生産的な生活を送っている。
"私頭が悪いから"って予防線はってから会話始めるのやめたいなー。だって大抵のことはどうでもいいんだもの。自分の生活圏内にあるものだけで生きていけてしまっている。私にもそれなりに本を読んだり絵を描いたり見たり楽器を楽しんでみたりしたいという欲求はあるのだけれど、それをするまでに思い付きの熱がシュルシュル冷めていってしまうからいけない。何の努力もせずに教養が身についたらいいのになーーー!突然目の前に10億円が降ってきたらいいのになーーー!期待されないのは楽だなあ。ずっとこのポジションに収まっていよう。いつも優しくていい人が1度花を踏んでしまうだけで極悪非道のように言われてしまうのに、いつも悪くて酷いことばかりしている人が1度席を譲ったりするだけで天使になれるこの世界、だったらクズのままいた方が徳だよねーーー!私は本当に意地が悪いので、運転中に煽られたりすると「指と指の一番掻きづらいところを蚊に刺されろ」なんて地味な呪いじゃ満足できないから「ファイナルデスティネーションみたくお前のまわりのありとあらゆるものが凶器になってしかも結局定めから逃れられず苦しんで死ね。ブレーキの間にペットボトル転がって前方の車に突っ込んで死ね!」とか平気で考えます。
何もやりたくない何をしても楽しくないは病気だから早めに病院へ。

遠い国で怒る戦争も地下鉄で起こるテロもクソ興味のない芸能人の不倫も殺人事件も全てはおいちゃんを素敵に彩るための犠牲なんだよ。私のこのギリギリの生活ですら。
小学生の頃に朝顔の育て方を学んだ。炎天下の下体育座りで蟻を指でなぶり殺すのにも飽きて、やがて私の体が受ける日射量の許容範囲を超えて喉の奥から吐き気が込み上げてくる頃に、白い蝶がヒラヒラと目の前を通過するのを私は見たのだ。
あの蝶の羽ばたきが私とあなたを引き寄せたのでしょう。私は貴方に会うために生まれてきたのだと思います。私はそれを呪いと呼んだ。