もう今年も夏が過ぎていく


と言いつつ、まだクーラーを使わなければ眠れないこんなにも寝苦しい真夜中。


同じベッドに入り、ふたつ枕を並べて、ひたすら一緒にいるのに、ひたすら話は尽きないから、じゃれあってくすぐりあって疲れたらやっとおやすみ。



最近あなたの暮らしはどう




私は、新しいバイトを始めて(たった週2だが)それなりにうまくやっている。

同じ職場の人間に嫌われなければあとはどうでもいい、理解の範疇を超えた客も時々いるがこいつらもいつか必ず絶対に死ぬのだからどうでもいい、せめて苦しみ抜いて死んでくれればそれでいい、「この職場怒るような人はいないから」と店長は優しく微笑んだが、昔に社内不倫が3組あったことを私は知っている。ただ、それもどうでもいい話。

確かにみんな優しくて、悩みと言えば自分の至らなさや研修期間を終えても出来ないことが多いという点のみ。だからと言って努力しようという気もさらさらないのが私の悪いところ。


職場の人間と深く関わる必要性を全く感じない。ディズニー行きましょうは社交辞令、「好きです」なんて「マジやばい」と同じ意味、ノリで告白されたからノリで付き合った、昔から。それがかわいい女の子だったから、すごくすごく嬉しかっただけ。

頭すっからかんでノリだけで生きてたい、底なしに明るいと言われるくせに"なんか違う"と気付かれるのが1番恥ずかしい。

太陽みたいな人にずっと憧れている。



日焼け止め塗った瞬間にとけるみたいな暑さの中、友達とたくさん遊んだ。

私は恋人や友達に、親と同じ愛情を求めて何度も失敗した典型的な愛着障害だったから、その頃の友達とか全然いない。


こんな私を友達と認識して、今でも会って楽しいと言ってくれる数少ない変わり者の友人達が、いなくなったらもうお終いの世界で生きているから、重いしキモイんだけどやることなすこと何でもかんでも楽しいし奇跡だし特別だと思ってる。女の子といるとき、すっごい楽しませたいと思うし、笑わせたいし、笑ってくれたら嬉しくて泣く。私なんか近づいちゃいけない、みんな女神だと思うよ。







悲しいから悲しい曲を聴くのではなく、悲しくなるために悲しい曲を聴く。

それが私にはちょうどよかった。常日頃、そんな気分でいることが私にはちょうどよかった。


悲しいことを、わざわざ思い出すために、悲しいを貪り食い、かなしいかなしいと呟くことでしか美しいと感じられなくなってしまっていた。



不倫さんと1ヶ月ぶりの電話。

「少し声に元気が出てきた気がします」なんて、ただの勘違いだった。

なかなかね、何も出来ないし気分もね、自分の性格が嫌になるよ、と言ったから、「そんなことないですよ、私なら全てを恨みます…」と返した言葉のセンスのなさ。


不倫さんは私のこと恨んでる?

いけないことをしたからバチがあたったと今でも思ってる?


だんだんズレていくテンション、少しずつ少しずつ澱んでいく空気、噛み合わない会話、行き詰まりの話題、「また電話してね。待ってるね。」なんて嘘だろ、とベッドで膝を抱えた。



私はもう必要ないのかもしれない。

全てを奥様にたくして、私はもうこれ以上、二度と不倫さんと関わらない方がいいのかもしれない、


私の存在そのものが不倫さんを苦しめているのかもしれない、私そのものが癌みたいなものかと、顔を洗いながら思った。




考えすぎだよと言うんだろうけど、これは癖だから治らないんだ。被害妄想なのかもしれない、これも癖なんだよ。



人は忘れていく生き物だ。

忘却は、私たちに備わっている生存のための機能だ。



死すら考えたほどの苦しみも痛みも、今この瞬間世界で一番幸せなのは私だと叫びたくなるほどの幸せも嬉しさも、「絶対忘れないよ」という約束さえも、私は忘れていく。


あんなに愛していたのに、骨になった瞬間から、あなたの顔を声をどうしても思い出せない。

こうやって、思い出せないことがどんどん増えていく。


辛うじて、季節毎に香る懐かしい匂いにふと、昔のことを(そう遠くないことも含めて)思い出したりするが、それで泣きたくなるのは、単純な懐かしさと、二度と同じ気持ちではいられない、二度と同じ景色は見られないという忘却装置への切なさだろう。




愛したこと、嘘じゃないよ。



これはとても馬鹿げた話なんだけど、不倫さんを産んであげたいと思ったのだ。




これから私は少しずつ、自分でも気付かないほどゆっくりと、不倫さんのことを忘れていくんだと思う。


これからも悲しいことを思い出すために悲しい曲を聴くのだから、その度に不倫さんを思うのだろうけど、やがて顔も、声も、輪郭も、すべて思い出せない日がくるのでしょう。


それはとても残酷だけれど、あまりに自然なことで、朝が来て夜が来て、また朝が来る、不倫さんが死んでも地球は回り続けるし、私が消えても世界は滅ばない。当たり前のことだ。


不倫さんがいた、不倫さんがいない、そういう日々を繰り返すだけ。

それだけが不倫さんといた証になるなら、私はまた業を背負うから、不倫さんは何も気にせず、私になど目もくれずどこかで幸せになって欲しい。明日のことを大切な人と笑って話してほしいなと思います。




5時


あと2時間で彼氏が起きる

アラームの音で目を覚まして

私の腕の中に顔を埋めて、おはようのキスをくれる


それの繰り返し